ホワイトカラー・イグゼンプションは危険な制度           小川 英郎

2005年7月


1 今年(2005年)5月の連休明けにサンフランシスコとニューヨークに行ってきました。アメリカの法律家にお会いして、経済界・政府が目論んでいる「ホワイトカラー・イグゼンプション」という制度について勉強するためです。

この制度は、簡単にいうと、一定の要件にあてはまる労働者(イグゼンプト)については、何時間働かせても、使用者は割増賃金を支払う必要がないという制度で、アメリカの労働者の2割以上がこれに当てはまるとされています(1999年の統計)。

アメリカの公正労働基準法(FLSA)と労働長官の規則によると、例えば、部下を2人以上管理している労働者で、年収が280万円程度以上であれば、概ね管理職のイグゼンプトとされています。よく引き合いに出されるのが、バーガーキングやマクドナルドの副店長です。彼らの仕事は、ハンバーガーを作ったり、接客をするという定型業務がほとんどであっても、アルバイトを含め部下を管理監督していれば、管理職のイグゼンプトとして時間管 理をされず、割増賃金も支払われません。

また、主要プロジェクトのチームリーダーや保険会社のアジャスターのような人も広く含まれます。専門職の労働者の場合は、自動車教習所の教官を含む教師、保育士、看護士、調理師、葬儀屋のディレクター、アスレチックトレーナーなど多種多様な職種が例示されています。多くは業界団体のロビー活動によって政治的に含まれるようになったものです。

 

2 経済界はこのアメリカの制度を日本にも導入したがっています。要するに、現在のサービス残業を合法化して、長時間労働をさせてもコストが増えないような仕組みを望んでいるわけです。厚生労働省の研究会が4月に発足し、年内にも報告書をまとめ、2007年の通常国会での成立を目指しているといわれています。

 

3 しかし、アメリカの労働法は、もともと労働者を長時間労働から保護するという法律ではなく、日本の法制度とはあまりにも違ううえ、過労死、過労自殺の問題についても日本ほど社会問題とされていません。働き方や企業に対する従属の状況が異なるのです。

現地の弁護士に、アメリカの制度について質問すると、「おかしな制度だ」「使用者のコストカットが目的としか思えない」「こんな制度は、日本に導入しないで欲しい」といった答えが返ってきます。

さらに、アメリカでは、集団訴訟が認められており、使用者が違法に残業代を払わないで、裁判になるケースも続出しています。あるレンタカーチェーンでは、3人のショップの従業員にうえから、マネージャー、アシスタントマネージャー、マネージャー見習いという肩書きをつけて、「全員マネージャーだから、管理職だ」として、一切割増賃金を支払っていなかったため、集団訴訟を起され、巨額の賠償金を支払わされています。

 

4 日本における労働現場の過酷な状況を放置したままで、さらに労働時間規制を緩和していこうという規制緩和の流れは、日本の労働者にとって大変危険なものです。